研究会について
ご挨拶
北海道大学大学院医学研究科腫瘍病理学分野 田中伸哉
本研究会は、迅速免疫染色装置R-IHCラピートの開発段階ではじまった研究会です。2012年に第1回の会が秋田大学で開催されました。このR-IHCラピートには、「電界撹拌法」という、電気的な力で液体を撹拌する新しい技術が用いられています。この方法では通常の液体が常温でのブラウン運動のおよそ1200倍のスピードで撹拌されることとなり抗原抗体反応を促進するものです。その結果、免疫染色の標本が20分でできるという画期的な技術です。
この技術は、秋田県産業技術センターの赤上陽一先生がIT部品に必須の水晶の生産のための研磨技術として開発していた電界撹拌法が基盤となっています。ある研究会で秋田大学呼吸器・乳腺内分泌外科学の南谷佳弘先生と赤上先生が出会い、この技術が免疫染色に応用できるのではというアイディアが生まれました。
80年代後半に病理学に導入された免疫染色は急速に発展し、現在では医療にとって欠く事のできない技術となっています。現在免疫染色は病理検査室で定着していますが、より正確な病理診断をいち早く求められる場合もあるのも事実です。術中迅速診断もそうですし、常勤病理医が不在で出張医が日帰りで診断するときにも役立つことが期待されます。
秋田エプソン社の協力のもとプロトタイプができたところで、秋田大学の南條博先生、神戸大学の伊藤智雄先生らを中心に研究会が組織されました。これは、この機器が本当に医療に役に立つかどうか、全国の病理関係者が実践に耐えるかを評価するためです。この研究会の特徴は医師ばかりではなく、各施設の臨床検査技師の方々、若手研究者など実務的に標本作製、機器改良、診断に関わるメンバーが集まっていることです。また各メンバーもこの機器の臨床病理への応用に熱心に取り組んでいます。それほど免疫染色は病理診断にとって重要で、ひいては患者さんの診断治療に深くかかわっているからに他なりません。
実際の現場の声を反映して機器に改良が加えられ、また技師さんを中心にプロトコールが何度も修正され現在に至っています。2014年5月の発売に向けてはサクラファインテックさんが加わりより強力な布陣となりました。R-IHCラピートは、まだ誕生したばかりです。現在は限られた抗体が推奨されていますが、今後アプリケーションを広げてきたいと思います。
この研究会は開かれたオープンな会です。今後迅速免疫染色の手法が発展することで、我国を中心として病理医があたらしいツールを持つ事になります。また、R-IHCラピートは、免疫染色ばかりではなく、迅速ISHへの応用も期待されます。さらには臨床病理の分野だけではなく、基礎研究の分野でも従来技術的に検討できなかった弱い蛋白結合の検出も組織上可能となることから大きく貢献することが期待されます。
本研究会は開かれた研究会でどなたでも入会可能です。迅速免疫染色に関心をお持ちの多くの皆様を歓迎いたします。
2014年5月12日